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関東大学春季大会・第3戦 流通経済大学
2012/06/04
「ENJOY&TEAM WORK」。 原点を思い出させてくれた一戦
6月3日(日)・百草グラウンド
○帝京大学 29-15 流通経済大学●
《帝京》
1森川 2泉 3深村⇒浅堀 4今村 5マニング 6藤田(哲) 7松永 8イラウア 9塚本⇒前原 10山崎
11磯田 12荒井(基)⇒野田 13権⇒中村 14南藤 15小野
《流経大》※先発のみ
1山根 2植村 3小島 4榎木 5今野 6木下 7辻 8高森 9児玉 10ファエアマニ 11ジョセファ 12櫻場
13廣瀬 14山田 15矢次
「関東大学春季大会」第3戦の相手は、昨年度リーグ戦グループ優勝の流通経済大学。近年自信をつけてきている相手ゆえ、チャレンジャーの気持ちで全力を出し切れるかどうか。気持ちの部分での成長も問われる一戦となりそうだ。
また、常に相手の嫌がるところへボールを動かすチャレンジを続ける帝京だが、そのための前提条件として必要となるのは「セットプレーの安定」だ。この時期ゆえ成長途上ではあるが、現時点での成長度にも注目したい。
【前半戦】
天気予報では「雨」かつ「気温が低い」とのことだったが、この日は強い日差しが差し込み、気温も上昇。スタミナ面の消耗も懸念される。だが、条件は相手も同じ。まずは気持ちで負けないことが大事になる。
試合直前、岩出監督からは「迷わず、激しく、集中力を高めてプレーしよう」との声がかかる。また、前日のCチーム(71-0)、Dチーム(131-0)の試合を受け、「相手は昨日の悔しさがあるので、相当気合いを入れてくるはず。でも、昨日は昨日、今日は今日。その気合いに負けないよう、相手をしっかりリスペクトして、全力でぶつかろう」とのアドバイスが送られた。
久々の百草グラウンドでの試合とあり、大勢の観客が詰め掛ける中、いよいよキックオフ。開始直後から、激しいつばぜり合いが続く。互いにミスもあってペースがつかみきれない。パスが乱れて相手ボールになると、守りの時間帯となる。CTB荒井(基)らのナイスタックルで止めると、相手はキックで裏を狙ってくる。ここはFB小野が冷静にフェアーキャッチ。この試合全般をとおして、相手はキックを多用してきたが、帝京ディフェンスはほぼしっかりと対応していた。
ただ、キックが増えれば、ときにラッキーバウンドも起こる。7分、相手のキックからWTB磯田がカウンターアタック。前進し、さらにBKが積極的に仕掛けるが、ターンオーバーされるとまたもキック。これがラッキーバウンドとなって相手に収まり、そのままトライを献上(0-5)。
直後、マイボールスクラム。やや、回り気味のスクラムになる。
HO泉はスクラムについてこう語る。
「うちのPR陣は若いメンバーで、特に3番は1年生。相手はそこにちょっと変わった組み方をしてきましたが、こちらはそれに対応するというよりも、『とにかく姿勢をしっかりするように』と言いました。『押そうと思わなくていいから、安定させよう』と。(押せれば一番いいのですが)それでしっかり組んでくれたので、第1列としては成長を感じています。」
左PR森川はこう振り返る。
「相手の1番が少し違った組み方をしてきたので、やや周り気味になりましたが、自分の方は対応できていましたし、組むごとに安定していったと思います。1年生には細かい修正というよりも、毎回、練習のつもりで姿勢を意識してもらいました。」
現段階では細かな技術ではなく、基本を重視することで、今後への基礎固めができているようだ。これからの成長が楽しみだ。
ただ、スクラムは安定するものの、攻撃の場面でややミスが出てしまい、やや守る時間が長くなる。それでも24分、この日も分厚いカバーDFを披露したFL松永の好タックルからターンオーバーすると、BKへ展開。パスが乱れるが、こぼれ球にすばやく反応したWTB南藤が拾い上げて前へ。そのまま走り切ってトライを奪う(7-5)。
続く29分、ラックでの相手ペナルティからクイックスタートで外へと展開。途中、PR森川がつなぐなど、FW、BK一体となって前進し、最後はWTB磯田がスピードで振り切ってトライを奪う。
直後、アクシデントで帝京の布陣が変わると、ペナルティからの相手の早い攻撃に一瞬足が止まる。だが、気力のDFでカバー。日々成長を見せるLOマニング、CTB権、WTB磯田らのタックルで止め、前半を12-10で折り返すこととなった。
前半は、相手の圧力もあり、また自分たちのミスも重なり、停滞した時間もあったが、焦ることなく対応。
後半も落ち着いて、基本的なプレーをしっかり積み重ねることでペースをつかみたい。
もう一つのセットプレー、ラインアウトはほぼ五分五分、お互いにマイボールをキープし合っていたが、LO今村・マニングは相手にプレッシャーをかけ続けていた。相手ボールを奪えるのが理想だが、後半もまずはマイボールをしっかりとキープすることを意識したい。
【後半戦】
ハーフタイム、岩出監督からは「うまくいかないときこそチャンス。自分たちが成長できる、すごくおもしろい試合になる。うまくいかないときには、シンプルにプレーしよう」と声がかかる。「相手をさらにリスペクトしていこう。結局、敵は自分たちのハートにあることに気づこう!」との檄を受け、後半へと向かった。
その後半は、落ち着いた立ち上がりでスタート。帝京はしっかりとボールをつないで、前に出る。途中出場のWTB前原が前進し、権が抜け出すが、パスが惜しくもスローフォワード。だが、チームに自信と勢いが戻るプレーだった。
その後、相手の長いタッチキックからゴール前に迫られるが、きっちりとディフェンスしてターンオーバー。FBに回った南藤がライン参加し、ラインブレイク。ゴール前まで攻めるが、惜しくも得点にはならず。
この後、さらにチームを鼓舞するプレーが出る。相手SOへPR森川が突進。見事なチャージでビッグチャンスと思われたが、ボールは相手側に転がる。それでも、そのラックから出たボールを再度、森川がチャージ。ここも惜しくも得点にはならなかったが、気合いを前面に出したプレーで、チームに勢いを与える。
13分、帝京ボールのスクラムから、SHに回った小野がしっかりさばいてBKへ。2年目で好調を維持する権がディフェンスを突破し、つかまってもしっかりとボールキープ。左へ展開して、磯田まで回りトライ。直後の18分には、再度スクラムを起点に権が突破。南藤、前原と渡ってトライ。完全に試合のペースをつかむ。
31分には、またもスクラムからCTB中村が突破。磯田へと渡ってトライ(29-10)。スクラムを起点としたBK展開で3連続トライを奪い一気に勝負を決する。
その後も、途中出場のPR浅堀、CTB野田らがきっちり脇を固め、安定感のある試合運びで29-15で帝京が勝利を収めた。
前半は多少ミスも散見されたゲームとなったが、後半、落ち着きを取り戻し、接点でのつなぎなど基本的なプレーでのミスが減り、得点を重ねることに成功。特にスクラムの安定から、いいイメージでBKへボールが供給しトライシーンを多くつくれたことは、成長の証の一端と言っていいだろう。
《試合後のインタビュー》
■岩出雅之監督「今日は、特に前半は非常に競ったゲームになりました。こうした競ったゲーム、思いどおりにいかないゲームこそENJOYすることで次への成長へとつながっていきますから、その意味ではとてもいいゲームだったのではないでしょうか。また、一部の4年生が教育実習への参加等で出られない中、若いメンバーが成長できたゲームだったと思います。
人間というものはどうしても楽な選択肢を選んでしまいがちです。いいところもたくさんありましたが、今日はその楽な選択をして、自分たちでペースを乱し、うまくいかないことでイライラしてややペースを乱すという悪循環にはまってしまったようです。そこから抜け出すには、心に余裕がないときにはシンプルなプレーを、気持ちに余裕があるときにはじっくり考えた深いプレーをすることです。そして、相手をきちんとリスペクトできていれば、常に自分の全力を出すことができるでしょう。
チームはいま、非常にいいムードです。そうしたいいムードのチームでも、今日の前半のような甘さが出て、うまくいかないこともあるものです。それに気づいたことで学生たちはさらなる成長を遂げてくれることと思います。」
■キャプテン・HO泉敬(4年)
「今日は、内容はいいとは言えなかったのですが、多くを学べたという意味ではとてもいい試合だったと思います。余裕のあるときには深く考えてしっかりプレーし、余裕のないときにはシンプルにプレーすることを心掛けて臨んだのですが、特に前半、余裕がない中でシンプルなプレーができていなかったように思います。FW第一列としては、1、2年生のPR陣の成長を感じていて、スクラムも今後、もっともっとよくなっていくと思います。今日は、相手をしっかりリスペクトして戦うことの大切さを学びましたので、次からは、もう一度謙虚に、激しく、泥臭くやることを思い出して、チャレンジャーの気持ちを忘れずにやっていきたいと思います。」
■スクラム&フィールドプレーでチームを鼓舞した・PR森川由起乙(2年)
「前半、うまくいかないところがあって、少しあわててしまったように思います。自分は2年生ですが、FWをまとめられるように冷静になって、ゲームの中で成長していけるようになりたいです。キックチャージは、それまで相手のSOに対してあまりプレッシャーをかけられていなかったので、行ってみようと試してみたらうまくいきました。次は、今日出た反省点をしっかりと糧にできる試合にしたいと思います。」
■ラインアウトでさらなる高みを目指す・LO今村哲央(3年)
「今日は、ラインアウトでマイボールはほぼキープできましたが、相手ボールを奪えなかったのが悔しいです。テンポが一緒になってしまったため、競ってはいてもボールを奪うところまでには至りませんでした。また、自分があまり走れていなかったので、次はもっと走って、バチバチとタックルを決めたいです。後半は修正できていたものの、ラインアウトのディシジョンがしっかりできていなかったところもあったので、次は前半からしっかりできるようにしたいです。」
■積極的な仕掛けを見せた・SO山崎雄希(2年)
「今日ようにペースを楽につかめない試合を乗り越えることで自分も成長できると思うので、とてもいい経験になりました。この経験を次にしっかりと生かしていきたいです。内容的には、相手のアタックに対して受けに回ってしまったところがあったので、もっと自分から意思を出して、しっかりコミュニケーションしてやっていけたら、もう少し楽に試合を進められたと思います。次は、まずはディフェンス。もっとタックルも低く入って、激しいディフェンスをしたいと思います。」
■攻守に激しさを出した・CTB権裕人(2年・ゲームMVP)
「前に出るプレーはありましたが、特に前半、タイトな試合の中で自分もいっぱいいっぱいになっていたところがありました。結果的にフェーズでゲインできていただけだと自分では思っています。厳しい展開の中でも、それを苦しいと思うのではなく、楽しむようにと思っていたのですが、なかなかできませんでした。相手のプレッシャーも強かったのですが、ダウンボールミスやノックオンなど自滅の要素も多くて、苦戦の原因はそこにあったと思います。次もいつもどおり、タックルと運動量。タイトな試合でも余裕をもって、周りを元気づけられるように、厳しいゲームも楽しむことをテーマにやっていきたいと思います。」
■スピードに力強さが加わり、プレーに安定感が増した・WTB南藤辰馬(4年)
「今日はタイトなゲームになりましたが、その原因として自分たちの厳しさのなさがあったと思います。油断したつもりはなかったのですが、甘いプレーが出てしまいました。ハーフタイムで修正することができましたが、自分たち、特に僕たち4年生が気づいて、試合中にどう修正できるかが課題です。個人的には、昨シーズンよりも体重が3~4㎏増えたのですが、特に違和感なく動けているので、それを生かした力強いプレーができるように頑張りたいと思っています。」
■海外遠征を経て経験を積み上げる・No8河口駿(2年)
「残り30分での出場でしたが、ゲームの流れを変えたいと思って試合に臨みました。流経大さんのいいプレーもありましたが、自分の判断ミスもあってチームに迷惑をかけてしまったので、そこはしっかり修正して次に向かって頑張りたいです。U20日本代表から帰ってきて、泉キャプテンや他の先輩方から、自分のいない間にあったこと、監督やコーチからのアドバイスなどについて教えていただきました。自分では理解したつもりでいたのですが、実戦に臨んでみるとまだできていないところがあり、それが試合に出てしまったので、そこを反省して次に臨みたいと思います。」
■急遽出場も落ち着いたプレーを見せた・WTB前原巧(2年)
「今日は予定よりも早く出場することになりましたが、いつでも出られるように準備していたので、自分のできることを思い切ってやろうという気持ちで臨むことができました。アタック面ではスピードで前に出られたシーンがありましたが、もっともっとスピードを磨いて、自分の強みにしていきたいです。また、ディフェンスでの走る量、バッキングのカバーの部分でしっかりできたところはよかったと思います。ただ、当たり負けしていたところもあったので、もっと体を強くしたいと感じました。自分はタックルをもらうケースが多いのですが、もっと体を大きくしていけば、さらに自信がつくと思います。技術だけでは通用しないところもあるので、もっと体を大きくして自信にしたいです。」
《PICK UP PLAYERS》
常にタックルの質にこだわる職人FLFL 藤田哲啓(4年生)
FUJITA AKIHIRO
1990年7月31日生まれ
医療技術学部スポーツ医療学科
青森北高校出身
身長175㎝/体重88㎏/血液型B型
■まずは今日のゲームについて振り返ってください。
「もう少し、前に出るプレー、ディフェンスでもっと前に出て圧力をかけるという部分がまだ少し足りなかったように思います。相手を止めて、ボールを取り返すタックルができるようにしたいです。」
■ここ数試合を見ても、藤田選手のタックルで相手をしっかりと止めているシーンを数多く見ています。
「ありがとうございます。ただ、タックルに行っている回数は多いかもしれませんが、マイボールになるようなタックル、相手を押し倒してターンオーバーするというシチュエーションが少なかったので、もっと質の高いタックルができるように頑張りたいです。」
■やはり、ターンオーバーしてこそのタックルだということですね。
「そうですね。止めるだけじゃなくて、そこで相手にボールコントロールさせないようなタックルをしたいです。常にタックルの質を考えてプレーしたいです。」
■やはり自身の強みはタックルですか。
「求められる部分はやはりそこだと思うので、もっともっとレベルアップしていきたいです。」
■アタックではどんな意識で臨んでいますか。
「今日はボールをもらう機会が少なかったのですが、ミスを減らしてフェーズを重ねるという、ボールコントロールと継続を意識してやっています。」
■4年生ということでチームを引っ張る役割も担っていますが、そこはどんなふうに意識していますか。
「1、2年生の若いメンバーも多いので、気持ちの面でサポートしていけたらと思っています。そのためにも、心の余裕をもって、その余裕を下級生に伝えていきたいです。」
■今、一番強化している部分はどこでしょうか。
「やはりタックルですね。ターンオーバーできるような質の高いタックル。前に出て、相手をしっかり押し倒せるようなタックルをしたいです。」
■気持ちの部分では、どんなことを心掛けていますか。
「気持ちを前面に出してタックルに行くこと。また、同時に余裕をもってプレーすることですね。」
■次への意気込みを聞かせてください。
「もっとタックルの回数を増やしながら、一つ一つの質にこだわって、そこからカウンターでトライにつなげられるように頑張りたいと思います。」
泥臭いプレーでチームを引っ張る職人的なFL。ピンチの芽を事前に察知し、黙々と確実に摘んでいくプレーには派手さはないが、チームにとっては欠かせない存在だ。本人は「ターンオーバーしてこそタックル」と語るが、ここには常に高いレベルを目指す姿勢が表れている。アタック面での力強さが加われば、相手にとってはさらに嫌なプレーヤーになることだろう。
《NEXT MATCH PREVIEW》
【6月10日(日)関東春季大会・第4戦 VS東海大学 百草グラウンド 14時半キックオフ】
次戦は、春季大会第4戦(最終戦)。相手は東海大学。昨季の大学選手権では準決勝で、一昨年は決勝で対決した強敵だ。ここ数戦は特に気持ちの部分での成長が見られるが、次戦でもその気持ちを前面に出して戦いたい。
(文/木村俊太、写真/志賀由佳)
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