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~帝京ラグビー部の1番長い日~ 11.25、vs早稲田C、D、E&ジュニア選手権決勝
2012/11/27
~帝京ラグビー部の1番長い日~
11.25、vs早稲田C、D、E&ジュニア選手権決勝
2011年12月11日。
帝京大学ジュニアチームは秩父宮で関東大学ジュニア選手権決勝戦を慶應と戦い、
大接戦の末、創部初の優勝をあと一歩で逃した。
あれから348日。
11月25日、百草グラウンドでそのジュニア戦決勝を含めた早稲田大学との4連戦を行うこととなった。
帝京ラグビー部の1番長い日。
対早稲田C、D、E戦を含む全4試合を時間の経過とともに振り返っていく。
≪AM9:55≫
この日の第一試合。Eマッチを前に円陣を組み、気持ちを高める帝京の選手たち。
あとに続く3試合のためにも、勢いをつける試合を披露したいところだ。
4年生を中心に、俄然、その表情は赤味を増している。
≪AM10:00≫
まだ冬の肌寒さの残る中、Eマッチ・キックオフの笛が告げられる。
先にスコアを動かしたのは早稲田E。得意の揺さぶりからLOが一気に駆け抜け、先制パンチを浴びせられる。早くも早稲田ベンチは公式戦さながらの、いやそれ以上の盛り上がりを見せる。
だが、一歩も引かない帝京E。
まずはドライビングモールから同点トライを奪取すると、さらにスクラムで圧力をかける。
合月、服部、永井の押しは味方に勇気をもたらす。
前半終了間際には、LO宮城の好フォローから88kgの大型CTB村澤が強さを見せ逆転トライを叩き出し、ハーフタイムへ突入(12対7)。
≪AM10:44≫
ハーフタイム。サブグラウンドでは次の試合を戦うDメンバーが入念にアップを行っている。徐々に第3試合のジュニア戦メンバーもグラウンドに顔を揃え始める。南藤、天野ら4年生の表情は、いい意味でリラックスしている印象だ。
≪AM10:49≫
Eマッチ後半が再開される。スクラムに続きブレイクダウンでも圧倒し始める帝京E。
14分にはFL石嶋が持ち前の突破力を活かし加点。守ってもLO市川のラインアウトスチールやWTB山下の粘り強いDF、また後半に投入されたCTB大塚(悠)らが再三に渡って好タックルを見せ、19対7で第一試合を幸先良く勝利で飾った。
全般的にFW戦を制したこと、また粘って粘ってのDFが勝因となったが、さらに印象的だったのは試合に出場していた15名の他、リザーブで待機していたおよそ20名がインゴールでメンバーに檄を飛ばしていたこと。
夏の菅平合宿でもCDチームの練習は常にエネルギッシュであったが、このチームの根底に流れる『熱さ』と『一体感』を、改めて目の当たりにすることができた。
≪AM11:25≫
Eマッチを勝利で飾りクールダウンを終えた選手に話を訊く。
まずは藤代コーチが「まだ1年生ですし荒削りですが、縦に強くて将来楽しみな選手です」と評すCTB村澤に「タックルも頑張っていたね」と声をかける。
「本当は自分たちからスイッチを入れなければいけないんですが、今日は先制されて、逆にチームが一つになれたと思います」と、まずは反省の弁。
だが、個人のことに話を移すとすぐに言葉に力がこもった。
「また春には新しい1年生が入って来ますが、絶対に負けないように、とにかくどんどんアピールしていきたいです」。岩出監督や管理栄養士などのアドバイスのもと、下伊那農業高校時代は98kgあったウエイトも10kg絞り、逆にパワーアップ。高校時代は無名ながら今後が楽しみな素材だ。
続いて藤村主務が「タックル、頑張ってました」と名前を挙げたのが、こちらも1年生のCTB大塚(悠)。激しいプレーの証か、後頭部を氷で冷やしながら振り返ってくれた。
「自分はDFしかできないので、気持ちでいきました。もしかしたら、今年最後の試合だったのですが、この8カ月ではラグビー以外の部分でもたくさんのことを学びました。まずは今まで以上に私生活をしっかりして、本当の意味で仲間から信頼される選手になっていきたいです」、と力強く語ってくれた。
ちなみに、以前八王子キャンパスで偶然彼を見掛けたのだが、同じく1年生の島瀬とともに、率先して構内に落ちたゴミを拾っている姿を発見したのを覚えている。
≪AM11:35≫
話は逸れたが、グラウンドではすでにDマッチが開始されている。
まずはDチームの切り込隊長・LO大島が豪快な先制トライを挙げる。
さすがの早稲田もインターセプトとFWのドライブで帝京ゴールを陥れる。
そんななか、この試合ひと際輝きを放ったのがFB川久保であった。
夏合宿では一時Bチームにも名を列ねた俊足FBは、要所でSOに入りCTB松下のトライを引き出すなどゲームメイクに貢献。走っても3トライを叩き出し、ゲームを引き締めた。
≪PM12:24≫
26対19。僅差のリードでハーフタイムに突入した帝京D。前半はFL森内の素早いフォローや、HO田中、FL桐明、SH岩本、CTB松下を中心にDFでも粘りを見せていただけに、後半もこの調子で連勝といきたいところだ。
グラウンドの至るところでは、泉主将・小野副将をはじめ、この日ゲームのないAチームのメンバーが、時には雑用係に、時にはDメンバーへのアドバイスに奔走している。
≪PM12:28≫
Dチーム、勝負の後半戦が始まる。
6分。川久保が再び相手ゴールを駆け抜けリードを広げる。
その後は守りの時間が続く。試合開始直後からスクラム戦で奮闘していたPR石澤が、今度はタックルで見せる。相手の足首に突き刺さると、すぐに起き上がって再び突き刺さる。これには傍らの岩出監督も「石澤、ナイスタックル!」と手を叩く。
チームが、そしてスタンドのファンが一体となって戦う帝京D。
26分にはNO8中川が試合を決定づけるトライを奪う。
結局さらに1トライを追加した帝京Dが45対19で勝利を飾った。
≪PM13:13≫
これでこの日2連勝。もちろん勝利がすべてではないが、直後に行われるジュニア選手権決勝に流れを引き寄せるためにも、D、Eチームが果たした役割は小さくない。
普段は口数の多くないDチーム・PR石澤も胸を張った。
「ジュニア戦もそうですし、Aも盛り立てるのが自分たちの役目の一つなので、一丸となって戦いました。個人的にもどんどん上に上がっていくためにも、来季はラストシーズンなのでがんばりたいです」。
彼は前出の大塚同様に、現在グランド外での取り組みに注力している。
「高校時代の自分では考えられなかったのですが(笑)…、トイレ掃除とか皆が嫌がることを率先して取り組むように心がけています。まだまだですが…」と、人懐っこい笑顔を垣間見せてくれた。
一方、BKを牽引した川久保は次のように試合を振り返ってくれた。
「今日はお世話になった4年生の先輩と最後の試合になる可能性があったので、その分も感謝の気持ちを込めてプレーしました。来季は自分が最上級生になるので、悔いの残らないように完全燃焼したいです」。
チーム内では分析係も兼務する川久保のさらなる飛躍にも注目したい。
≪PM13:17≫
第34回関東大学ジュニア選手権決勝戦
11月25日(日)・帝京大学百草グラウンド
○帝京大学24―17早稲田大学●
《帝京》
1高田⇒深村 2亀元 3東恩納⇒猿渡 4今村⇒木下 5小瀧 6平野⇒河口 7坂手 8小野(貴)
9天野⇒荒井(康) 10朴⇒金田 11柳 12大橋 13前原⇒徳富 14南藤 15森谷
《早稲田》※先発のみ
1大瀧 2伊藤 3安江 4永山 5古賀 6岩丸 7小谷田 8深津
9平野 10間島 11片山 12中西 13藤近 14荻野 15滝沢
いよいよこの日のメインゲーム『第34回関東大学ジュニア選手権決勝戦』が迫ってきた。
ジュニア選手権初優勝を狙う帝京としては、ここで勝ち切って、クラブの新しい歴史を作りたいところ。
ちなみに、ここ10年の帝京ジュニアの戦績は以下の通り。
2002年 第3位
2003年 準優勝
2004年 第3位
2005年 リーグ敗退
2006年 リーグ敗退
2007年 第3位
2008年 第3位
2009年 準優勝
2010年 第3位
2011年 準優勝
≪PM13:20≫
【前半戦】
キックオフ直前、Aチーム以下の124名の部員が、ピッチへと続く花道を形成する。
その先頭に位置する泉主将がジュニアのメンバーを鼓舞する。
「俺たちが、みんながついてるぞ!」
ゲームキャプテン・WTB南藤を皮切りにピッチへ全速力で駆け抜ける22名。
いよいよ決戦の時が訪れる。
キックオフ。まずは、今大会で攻守に切れを発揮しているWTB柳が、先陣を切ってヘッド・オンタックルを披露する。
続いてハーフウェイ付近からSO朴が爆発的なキックで敵陣を陥れる。1年生のNO8小野(貴)も、これに続く。
10分には、その小野が決して大きくない体を懸命に伸ばして先制のダイブ!
両軍のベンチ、そしてスタンドは早くも最高潮にヒートアップする。
その後も、帝京ジュニアは朴、FB森谷の足の長いキックを足掛かりにエリアマネジメントで先を行く。
対する早稲田も、2日前の早慶戦に出場したメンバーを含む、Aチーム経験者をズラリと揃え、落ち着いたプレーで対抗する。
一進一退の攻防に、固唾を呑んで見守る帝京の控え部員たち。ピッチではCTB大橋が、PR高田が厳しい局面でも我慢強くDFを続ける。LO小瀧らもこれに続く。
いつしか時間の流れはあっという間に時を刻み、7対10、帝京ジュニア3点のビハインドでハーフタイムの笛が告げられることとなった。
≪PM14:01≫
ハーフタイム。岩出監督は要点を絞り簡潔に、だが熱い口調で選手たちに指示を伝える。
「誰かに頼ったらダメだぞ。ネガティブに捉えたらクロスゲームはしんどくなるから、粘り強く、集中して、自分たちから出し切ろう!お前たちはAチームに上がって行くんだろ。スイッチ入れ続けて、あと40分、燃え続けてみろ…」。
22名が、146名がさらにリンクする。
≪PM14:12≫
【後半戦】
泣いても笑っても…の40分が再開される。
いきなりの先制パンチを浴びせたのは帝京ジュニア。
2分。小野がHO亀元がPR東恩納が、そして小瀧が相手DFをこじ開ける。
さらに機転を効かせSH天野が仕掛けると、最後は朴が逆転のトライ!(12対10)。
手の届きそうな距離で見守っていた岩出監督は「強気、強気!」とさらに背中を後押しする。
続く11分。相手ゴール前に迫る。強気に攻める帝京はまたもや天野を起点に、大橋、南藤とつなぎスコア(17対10)。
徐々にだが、確実に両チームのFWの力量差が明らかになっていく。平野、坂手、小野の3列はDFでチームを引き締める。
後半投入されたNO8河口、PR猿渡、SH荒井(康)らもチームに活力を与えるプレーを連発。
早稲田に1トライを返され、残り時間はあと5分。「同点のまま終了…」といった雰囲気も立ち込め始める。
だが、帝京はあくまでも勝利にこだわる。荒井(康)が獅子奮迅の活躍で相手をかき回すと、敵陣深くに歩を進める。
38分。相手ゴール前でペナルティを獲得する。ショットを狙うかと思われた瞬間、帝京はラックサイドをFWが一枚岩となって攻め上がる。
そして…最後はFW全員で初優勝を決定するトライ!
24対17、1トライ1ゴール差ながら、遠かったジュニア選手権の栄冠を手にすることとなった。
《試合後のインタビュー》
■岩出雅之監督「ジュニア選手権初優勝に関しては、帝京大学ラグビー部の新しい扉を開いたという意味でも、とても価値のある出来事です。数多くの先輩たちが達成することのできなかった偉業ですので、部員たちにも感謝の気持ちでいっぱいです。
今日一日は皆で心から喜んで、そして明日からは皆でさらなる目標に向かって進んでいきたいと思います。
今日ジュニアに出たメンバーも、出なかった者も、今後もひたむきに、粘り強いラグビーをより自分たちのものにして、一人でも多くの部員がAチームに上がってほしいと思います。それが全てではありませんが、せっかく4年間という学生生活の大半をラグビーに懸けているわけですから、『Aで活躍しよう!』、『皆で栄光を掴もう!』という言葉を、学生たちにはかけたいと思います。そして今は、『ジュニア選手権優勝おめでとう!』という気持ちでいっぱいです。
最後になりましたが、多くの皆様の御声援、誠にありがとうございました。
また、いつも多くのことを学ばせてくださる早稲田大学ラグビー部の皆様にも、感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました」
■ ゲームキャプテン・南藤(チームMVP)
「早稲田大学さんは、3週間前戦った時と気持ちの面でも全然違って、だいぶ分析されている感じでした。ジュニアチームは下級生も多いので、上級生は体を張ってプレーすることで下級生をリードしました。
昨年はミスで崩れて負けたのですが、今日は最後まで粘り強く戦えたことが勝因だと思います。去年の悔しさを知っているのも強みで、代々の先輩方の味わった悔しさも、晴らせたのではないかと思います。
ジュニアの優勝は皆にとって一つの目標でしたが、ゴールではないので、次のフィールドに一人でも多く立てるように、これからも切磋琢磨して皆で出し切りたいです」
≪※各選手のコメント等は、近日中に動画で配信予定≫
≪PM15:01≫
この日のラストゲームはCマッチ。4タテで有終の美を飾りたい帝京C。
ジュニア戦直後の中キックオフが告げられるも、帝京のベンチそしてスタンドは、さらに勝利に向け貪欲に声をかけ合い、ピッチのメンバーを盛り立てる。
これに応えるかのように、NO8堤が得意のサイドアタックで先制トライ!
続いては、WTB木崎がハーフウェイから独り旅し加点。前半はこのまま22対5で終了することとなった。
≪PM15:50≫
オーラスの40分。帝京Cの勢いはさらに加速する。
WTB松井が、FL島瀬が、CTB徳富がぺネトレートすれば、荒井(康)―金田の1年生HB団は左右へのスイングで相手を翻弄。
20分過ぎには、PR浅堀、CTB濱野、WTB久田(チームMVP。下の写真・黄色ユニフォーム)らが、攻守に最後までひたむきなプレーでゲームを締め55対5でノーサイド!この日のラストゲームを4連勝で締め括った。
Cマッチ、元気の良いプレーを見せてくれた島瀬は「自分自身まだまだ課題ばかりですが、1年生は皆頑張ってるので、先輩方を見習い、4年間人間性も含めて皆で成長していきたいです。そして自分たちの後輩になる部員たちにも、そういったものを継承し、共有していきたいです」と、この試合に留まらない今後の長いビジョンを聞かせてくれた。また、濱野も「Aで活躍することは、今年に関してもまだまだあきらめていません。ただそれ以上に今は、先輩、自分で言えば荒井さんや権さんなどから本当に多くのことを教えてもらっているので、この環境に感謝しこれからも自分の財産にしていきたいです」と、充実感溢れる表情で語ってくれた。
ジュニア戦決勝を含む全ての試合を終えた帝京。
昨年度の同選手権決勝に出場したメンバーのなかからも、出渕、森川、泉、大和田、荒井(基)、小野(寛)らが今季Aチーム入りを果たしていることからも、近い将来の帝京を担うジュニアメンバーの動向は大いに注目が集まるところ。
そして、今季のジュニア選手権に名を列ねることのなかったメンバーにも、まだまだチャンスはある。
また、さらにいえば昨年度のジュニア選手権決勝を戦ったCTB太田などは、今季のジュニア選手権に出場することなく終わったが、試合に出場したメンバーたちと涙を流し喜びを分かち合っていたのが印象的だった。彼のような存在が、さらにチーム力を押し上げるに違いない。
帝京ラグビー部の一番長い日が幕を閉じた。
多くの先輩たちが成し得なかった栄冠を手に入れ、クラブの新たな歴史を創造した事実はいつまでも色褪せない。
だが、本当の戦いはここからになる。この日、誰よりも最前線に立ちピッチの部員たちに激励を飛ばし続けた泉主将が、最後にその熱い想いを吐露してくれた。
「自分自身、キャプテンとしてはいけないことかも知れませんが、皆の戦う姿を見ていて、熱くなり過ぎて、しっかりとした指示ができなかったかも知れません。でも、今日試合した選手たちからは確かに熱いものを感じさせてもらいましたし、ここから先、全員で一丸となって戦うのみです」。
炎は、さらに熱いものになったようだ。
ジュニア決勝の日からちょうど50日後。赤き146名に、再び栄光が訪れるに違いない。
(文/TIR●L、写真/志賀由佳)
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