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全国大学選手権ファイナルステージ準決勝・慶應義塾大学戦

全国大学選手権ファイナルステージ準決勝・慶應義塾大学戦

2014/01/03

「全国大学選手権ファイナルステージ準決勝・対慶應義塾大学戦」
 
1月2日(木)・国立競技場
○帝京大学45-14慶應義塾大学●

《帝京大学》
[FW]
(1)森川⇒竹井(勝)(2)坂手⇒前田(3)深村⇒東恩納(4)小瀧(5)町野⇒金(6)イラウア(7)杉永(8)大和田⇒河口
[BK]
(9)流⇒塚本(10)松田⇒野田(11)磯田⇒前原(12)中村(13)牧田(14)森谷(15)竹田
 
《慶應義塾大学》※先発のみ
[FW]
(1)三谷(2)中尾(3)青木(4)小山田(5)白子(6)濱田(7)木原(8)森川
[BK]
(9)渡辺(10)佐藤(龍)(11)服部(12)石橋(13)大石(14)下川(15)児玉

【前半】【得点経過】
【4分】帝5-0慶
ラックからSH流-SO松田-FB竹田-WTB磯田と渡り、磯田がディフェンスをかわしてトライ。
 
【15分】帝10-0慶
ラックでのターンオーバーからSH流が持ち出し、相手ディフェンスの裏へゴロキック。WTB森谷が拾って、そのままトライ。
 
【36分】帝10-7慶
FWで攻められ、トライを奪われる。
 

 【後半】【得点経過】
【3分】帝17-7慶
ラックからSH流-PR森川-SH流-SO松田と渡り、松田が仕掛けて、抜け出してトライ。ゴール成功。
 
【10分】帝24-7慶
相手ボールスクラムを押して、こぼれたボールにSH流がすばやい出足でセービングしてターンオーバー。ラックからPR森川がボールアウトし、HO坂手が押し込んでトライ。ゴール成功。
 
【16分】帝24-14慶
相手ボールスクラムからNo8に持ち込まれてトライを奪われる。
 
【24分】帝31-14慶
マイボールスクラムからSH流-CTB牧田と渡り、牧田が前進。ラックになるも、FLイラウアが持ち出して前進し、そのままトライ。ゴール成功。
 
【31分】帝38-14慶
ラインアウトからFWでの連続攻撃で前進。ラックからSH流-FB竹田と渡り、竹田が抜け出してトライ。ゴール成功。
 
【40分】帝45-14慶
連続攻撃で前進。SH塚本からSOに回った中村へとパス。さらに後ろから走り込んだCTB野田へと渡り、野田が抜け出してトライ。ゴール成功。
 

《  BRIEF REVIEW  》

大学選手権ファイナルステージ準決勝は、慶應義塾大学との対戦。対抗戦では75-0と圧勝したが、混戦のグループCを勝ち上がってきた勢いと厳しい戦いを経験した力はけっして侮れない。前半、立ち上がりは帝京ペース。4分、15分とトライを奪って波に乗るかと思われたが、このあたりからレフリーとの解釈の違いもあり、ペナルティが増えてくる。相手の出足の速いディフェンスもあり、攻め切れない。ディフェンスの時間帯も長くなり、必死に耐えていたが、36分にトライを奪われ、前半を10-7で折り返す。ハーフタイムでは、ペナルティをしないことと、一つ一つのプレーを丁寧にやっていくことを確認した。そして、後半。3分、9分とトライを奪って突き放す。FW、BKのバランスもよくなり、FWを前に出してディフェンスを引き付けたところでBKへと展開して前進するいい形が出てくる。ディフェンスの場面になっても、FL杉永、LO小瀧、さらには途中出場のPR竹井(勝)、HO前田、No8河口らの好タックルで防ぐ。最後まで攻撃の手を緩めず、45-14でノーサイド。1月12日に行われる決勝戦への進出を決めた。
      
《  AFTER MATCH SAY  》
 
■岩出雅之監督
「今日は慶應大学さんのすばらしい、ファイトあふれるプレーで、久々に少し受けに回った選手たちを見ました。試合前は、楽なゲームができることを求めていた反面、願わくは厳しいゲームができたらいいなとも思っていました。もちろん、勝利して決勝戦に進むことを含めての厳しいゲームという意味ですが、セカンドステージがスコアの離れたゲームが多かった分、ここで学生たちが、我慢すること、しっかりプレーをして丁寧に積み上げていくこと、厳しいゲームほど自分たちのプレーに自信をもってやっていくということを、もう一度、ゲームの中で体験できたいいゲームだったと思います。ここへ向けたチーム状態は、いいようでいて、ちょっと心配な面もありました。でも、監督として信頼して、しっかり送り出したいと思い、あまり細かいことは言わなかったのですが、彼ら自身が苦い、少しつまずきそうなゲームを体験したことで、次に向けて最高の準備ができるだろうと思っています。慶應大学さんの好ファイト、そして結果的に私たちにとっていい体験になったことを含めて、慶應大学さんには敬意を表したいと思います。今日の慶應大学さんのすばらしい、気持ちの入ったプレー、タックルを、決勝戦で今度はわれわれが早稲田大学さんに対してしっかり出し切っていきたいと思っています。決勝戦はスコアうんぬんではなく、厳しいプレーをやり続け、80分間集中し切って終われるゲームができることを望んでいます。学生ラグビー最後のゲームを、いろいろな方が楽しんでいただけるようなゲームにしたいと思っています。」
 
■キャプテン・CTB中村亮土(4年)
「まずは、あけましておめでとうございます。今日は、やっているプレーヤーとしても慶應大学さんの気持ちというものをタックルで見せつけられました。プレー中も感じましたが、時計が止まっているときにもしっかりとコミュニケーションを取っていましたし、そういったことを含め、お互い、気持ちの入ったいいゲームができたと思います。内容としては、よくない時間帯もあり、自分たちの流れになった時間帯もありました。その両方がいい経験になったと思っています。今日の一番の反省点はペナルティ。これに尽きると思います。反省点の多い、しかし次につながるいいゲームができたことで、次へのステップアップにつながると思うので、早稲田大学さんとの決勝戦に向けていい準備をするべく、頑張っていきたいと思います。」
 
■最前線で激しく体を張り続けた・LO小瀧尚弘(3年)
「今日はセットプレー、特にラインアウトを安定させることができなかったのが悔しいです。セットプレーは自分の仕事だと思っているのですが、自身の統率力不足や甘いプレーが出てしまい、まだまだ改善の必要があると感じました。ラインアウトで坂手が投げやすい環境を作ってあげるのが自分の仕事なので、しっかり合わせて、坂手のいいスローに応えてあげられるように、これからまたしっかりやっていきたいです。ブレイクダウンでも課題が見えたので、決勝戦に向けて修正したいです。4年生の先輩方にとってはおそらく最後の国立競技場になるだろうと思うので、自分たち3年生も上級生としての責任をもってチームを引っ張っていって、4年生の先輩たちに勝利を贈れるよう、精一杯、精進していきたいと思います。」
 
■司令塔として巧みにゲームをコントロール・SO松田力也(1年)
「国立競技場という舞台でゲームができることに感動を覚えましたし、それに対して感謝の気持ちをもって試合に臨みました。秩父宮とは違う、独特の雰囲気を楽しみながらプレーすることができました。緊張もありましたが、むしろいい緊張感でプレーできたと思います。ゲーム展開としては、前半は風下でエリアが取れずに、相手のペースになってしまった時間帯もあったのですが、もう少しキックをうまく使いながらエリアを取っていければよかったのかなと思っています。後半の自分のトライシーンは、前があいたように見えたので、ここは勝負できるなと思い、勝負しました。SOとしてゲームを作っていくのは難しいところもあるのですが、流さんや(中村)亮土さんたちにサポートしていただいているので、とてもプレーしやすいです。決勝戦ではいいゲームをして、絶対に勝ちたいと思います。」
 
■短時間の出場も集中したプレーで激しさをアピール・HO前田篤志(3年)
「今日は出場時間は短かったのですが、その分、出たからには全力で100%出し切るという気持ちでゲームに臨みました。タックルをしっかりやろうと気持ちの中に秘めて臨んだのですが、決まったタックルも、はずされたタックルもあったので、一つ一つのタックルの正確さ、威力をもっと高めていって、次の決勝戦に向かえるようにしたいです。ラインアウトでは、相手のいいディフェンスもあって、コミュニケーション・ミスやうまくいかないところもありましたが、あと10日間、しっかり直して、最高の準備をしていきたいと思います。」
 
《  PICK UP PLAYERS  》
 
冷静な判断でFW、BKをコントロール
SH 流 大(3年)
Nagare Yutaka
1992年9月4日生まれ
文学部教育学科
身長165cm/体重72kg
荒尾高校出身
 
■今日の準決勝を振り返って、感想を聞かせてください。
「特に前半、少し苦しい場面もあったのですが、準決勝でこういったゲームを経験できたことはプラスに捉えたいです。ゲームを振り返ってみると、少し楽なプレーをし てしまってミスが出たと思うのですが、後半は厳しいプレーも多く、次につながる試合だったと思います。」
 
■試合前に何かテーマをもって臨んだのでしょうか。
「コミュニケーションとリアクションをしっかりやろうという話はしました。あとは、激しいプレーをしようと言いました。前半はそこがややできていなかったかなと思います。」
 
■SHとしてはどんなことを考えて臨んだのでしょうか。
「特にFWを前に出したいと思っていました。FWは頑張ってくれましたが、自分自身のミスもあって、それがなければ前半ももう少し楽にゲームを進められたのではと思い、そこは反省です。」
 
■ゲーム中、流選手がチームに何か声を掛けるようなことはありましたか。
「前半は風下だったので、しっかり我慢していこうという話はしました。また、風下の中でも、攻めていけるところではしっかり攻めていこうという話もしました。」
 
■3年生としてのリーダーシップも発揮されたようですね。
「前半、ややバタバタしてしまって、スコアも競っていたので、トライされたときには『我慢だ』という話は僕からもしました。ただ、みんなも共通理解として同じ意識と持っていたので、僕から多くの言葉を発しなくてもみんなで意識できていたと思います。」
 
■前半に比べて、後半いい形で攻めることができたのは、何かを変えたのでしょうか。
「そういうわけではなく、前半からFW、BKバランスよく攻めていこうとはしていたのですが、その過程でミスが出たり、ペナルティを犯したりもあって、うまく波に乗れませんでした。後半はペナルティも減り、ある程度、思っていたことができるようになったと思います。」
 
■次戦はいよいよ決勝戦ですが、意気込みをお願いします。
「やっとここまで来られたなという気持ちがあります。今までやってきたことを、今シーズン一番厳しい戦いをしてきている早稲田大学さんに対してどれだけ出せるかをテーマに、厳しさを出し切って、最後は全員で笑えるように頑張りたいと思います。」
 
言わずと知れた不動のSH。FW、BKを巧みにコントロールする、攻撃の要となっている。緩急をつけた球さばきに加え、ロングパスのコントロールもよく、瞬時の判断力にも長けている。自ら仕掛ける突破力も魅力だ。さらに、この試合でも見せたようにディフェンスの際の出足もするどい。昨年7月には日本代表強化合宿にも参加し、日本最高レベルのプレーを経験した。3年生ながら上級生としての自覚も十分で、チームを引っ張る意識も高い。決勝戦、日本選手権でもチームの牽引役となってくれることだろう。


《  COLUMN  》
 
――全員の思いを背負って――
 
この日の共同記者会見で、中村キャプテンはこんな話をしてくれました。
 
「次の試合は、試合が終わったとき、メンバー外も含めて、勝ち負け関係なく、本当の意味で笑顔で終われる試合をしたいと思います。それは、全員の思いを背負って、一年間やってきたことをグラウンドで出し切るような試合をすることだと思います。」
 
岩出監督も「決勝戦はスコアうんぬんではなく、厳しいプレーをやり続け、80分間集中し切って終われるようなゲームができることを望んでいます」と発言しています。
 
「とにかく1点差でもいいので勝ちたい」という言葉が出てもおかしくない場面で「勝ち負け関係なく」とか「スコアうんぬんではなく」という発言が出るのは、不思議に思われるかもしれません。
 
これらの言葉は、ともすると「負けてもいいと思っているのか」と誤解されかねない表現かもしれませんし、あるいは、「全力さえ出し切れば勝敗はどうでもいいということか」という誤解もあるかもしれません。
 
もちろん、そういう意味ではありません。
 
勝負というのは一般的に、自分たちの力と相手の力との差で決まりますが、自分たちでコントロールできるのは自分たちの力だけです。
 
相手の力はコントロールできません(相手の力を出させないようにすることはできないという意味ではありません。相手をコントロールすることはできないということです)。
 
相手をコントロールできない以上、自分たちにできることは自分たちのやってきたことをすべて出し切るということだけです。
 
もしこれができなかったら、悔いが残ります。
 
そういう悔いだけは残さないような試合にしようということなのです。
 
それによって、結果はおのずとついてくるということです。
 
さて、中村キャプテンの言葉にはもう一つ、すばらしい内容が含まれています。
 
それは「メンバー外も含めて」「全員の思いを背負って」というところです。
 
帝京大学ラグビー部はAチームだけで成り立っているわけではありません。
 
部員すべてがチームの一員であり、全員が「自分はチームのために何ができるか」を考えて、日々、行動しています。
 
ここでももしかすると「そんなのはきれいごとで、本音は違うのでは」といぶかられてしまうかもしれません。
 
ですが、対抗戦で2試合、大学選手権で1試合Aチームでの出場経験があるが、この日はメンバーからはずれていた4年生の高田はこう話してくれました。
 
「正直、試合に出ないメンバーはモチベーションの維持が難しいこともあるでしょう。でも、その価値感、考え方を変えるのが4年生の役割だし、4年生全体で目配り、気配りしてみんなをサポートしながら、チームを一つにまとめています。練習では、Aチーム相手にどれだけ厳しくできるかを考えます。対戦相手の精度を上回る必要があるからです。もちろん、グラウンド外でも手本にならなければなりません」
 
4年間、ずっと活躍し続けながら、ケガでここ数戦は出場機会がない李バイス・キャプテンはこう話しています。
 
「ケガをして悔しい気持ちとか、モチベーションが落ちるというのは、結局は僕個人の話です。チームが前に進もうとしているときに、個人の小さなことでくよくよしていてはチームにとってよくないという考えになって、それからはケガをしていても自分にできることは何かを探すようになりました。」
 
昨年度の日本選手権で公式戦デビューを果たしながらも、ラストシーズンはケガに泣いた松井は、チームの裏方の役割をしっかりと果たしています。
 
もちろん下級生の気持ちも同じです。
 
SO松田と同じく鳴り物入りで入部した重なども、ケガで1年目のAチーム入りはなりませんでしたが、受付ブース周りで、懸命に仕事をこなしています。
 
チームは一つ。帝京の学生応援席からはいつもグラウンドのメンバーたちに勇気を与えるような声が発せられますが、それだけでなく、応援しながらも、各自がプレーの内容について常に話し合っています。
 
「応援席のメンバーも試合に出ているのと同じ気持ちで、24番目の選手として見ています。ただ試合を見ているだけではなく、もっとこうした方がいいんじゃないかといった会話も聞こえてきますし、見たことを一人一人がどう生かそうか、自分ならどうするだろうかと考えながら見ているので、自然と一体感のある空気ができて、チームが一つになれているのだと思います。」(李バイス・キャプテン)
 
ノーサイド直後の各あいさつを終えると、グラウンドの選手たちは必ず、スタンドの応援席の部員たちに向かって大きく手を振ります。チームの一体感がよくわかるシーンです。
 
試合後、出場メンバーも応援メンバーも一緒に組まれた円陣で、中村キャプテンは開口一番、こう言いました。
 
「すばらしい応援をありがとう!」
 
残す階段はあと一段。ファンも部員も関係者も一つになって、最後の一段を上りましょう。
 
 
 
《  NEXT MATCH  》
 
第50回全国大学ラグビーフットボール選手権大会・ファイナルステージ決勝
対早稲田大学戦(http://www.wasedarugby.com/
1月12日(日)・国立競技場
13時キックオフ
過去の対戦成績:関東大学対抗戦8勝27敗(大学選手権3勝2敗)
[早稲田大学の直近5戦]
11月23日 ○69-7慶應義塾大学(関東大学対抗戦)
12月 1日 ○15-3明治大学(関東大学対抗戦)
12月 8日 ○46-12大阪体育大学(大学選手権セカンドステージ)
12月15日 ○48-18京都産業大学(大学選手権セカンドステージ)
12月22日 ○57-7中央大学(大学選手権セカンドステージ)
1月 2日 ○29-11筑波大学(大学選手権ファイナルステージ準決勝)

(文/木村俊太、写真/志賀由佳)

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