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第52回日本ラグビーフットボール選手権大会 東芝ブレイブルーパス戦

第52回日本ラグビーフットボール選手権大会 東芝ブレイブルーパス戦

2015/02/16

第52回日本ラグビーフットボール選手権大会 対東芝ブレイブルーパス戦

2月15日(日)・秩父宮ラグビー場
●帝京大学24-38東芝ブレイブルーパス○


《帝京大学》
[FW]
(1)森川(2)坂手⇒徳永(3)深村⇒浅堀(4)金(嶺)⇒姫野(5)小瀧⇒飯野
(6)イラウア(7)杉永(8)河口⇒町野
[BK]
(9)流(10)松田(11)磯田(12)前原⇒山崎(13)権⇒濱野(14)尾崎(15)重

《東芝ブレイブルーパス》※先発のみ
[FW]
(1)三上(2)湯原(3)浅原(4)梶川(5)大野(6)山本(7)ラティマー(8)
リーチ
[BK]
(9)小川(10)森田(11)大島(12)カフイ(13)渡邊(14)伊藤(15)豊島

【前半】【得点経過】
【3分】帝0-7東
連続攻撃からSHに抜け出されトライを奪われる。

【18分】帝0-14東
連続攻撃からCTBに抜け出されトライを奪われる。

【25分】帝0-21東
キックカウンターから攻められ、トライを奪われる。

【37分】帝5-21東
SO松田が狙ったPGがポストに当たって跳ね返る。FL杉永がうまく拾ってラックに。SH
流-SO松田-CTB濱野と渡り、濱野がディフェンスを2人かわしてトライ。


【後半】【得点経過】
【3分】帝5-26東
ラインアウトからモールを押し込まれ、持ち出されてトライを奪われる。

【14分】帝5-31東
キックパスを通され、トライを奪われる。

【15分】帝12-31東
キックオフのボールに絡み、FL杉永が前進。ラックからSH流-SO松田と渡り、松田が
前進。再度ラックになって、SH流-CTB前原-WTB尾崎と渡り、尾崎がディフェンス2
人をかわしてトライ。ゴール成功。

【21分】帝12-38東
スクラムから展開されてトライを奪われる。

【27分】帝17-38東
ラインアウトからFWで前進。CTB濱野が前進し、ラックからSH流-SO松田-WTB磯田と
渡り、磯田がトライ。

【36分】帝24-38東
こぼれ球をCTB濱野が拾って前進。ラックからSH流-SO松田-PR森川-WTB磯田と渡
り、磯田が走り切ってトライ。ゴール成功。


《BRIEF REVIEW》

日本選手権での打倒トップリーグを果たして一週間。次なる相手はトップリーグ3位
の東芝ブレイブルーパスだ。帝京は立ち上がりから激しさを出していくが、相手の壁
も厚く、跳ね返されるシーンも見られる。相手の激しい攻撃にも必死の守りで防ぐ
が、一瞬のディフェンスのほころびも見逃さない相手に、似たパターンで3つのトラ
イを許してしまう。攻撃面ではチャンスを作る場面も多々あったが、相手の帝京OB森
田選手の厳しいタックルなどで防がれてしまう。それでも、37分にはPGの跳ね返りに
FL杉永が反応し、ラックから素早く展開。CTB濱野が強さを見せてトライを奪い、5-
21で前半を折り返した。後半も早い時間帯に2つのトライを許すが、15分にはWTB尾崎
が、相手の足が止まりかけた27分、36分にはWTB磯田がそれぞれトライを奪い、24-
38と2トライ2ゴール差に迫る。その後も攻め続け、チャンスはあるものの取り切れ
ず、そのままノーサイド。敗戦とともに、今年度のチームでのゲームは終了となっ
た。なお、試合後の記者会見で、岩出監督から「坂手淳史キャプテン、金田瑛司バイ
スキャプテン」という次年度の体制が発表された。4年生中心に最後まで激しさを見
せ、示し続けたこの日の覚悟は、次年度のチームにも必ず引き継がれ、さらなる進化
の糧となることだろう。


《AFTER MATCH SAY》

■岩出雅之監督
「学生には『自分たちの力を信じて、少しでも余裕をもってやれば絶対に勝てる』と
言って送り出しました。ただ、前回のNECさんとの試合のときは、完全に『やる』
というスイッチが入っていましたが、今日は『勝てる』という思いと、まだ少し確信
が持てない部分と両方があったのか、少し迷いがあったように思います。その迷いと
いうのは戦術的なことも含むのかもしれませんが、そうしたさまざまな部分で我々の
力が足りませんでした。とてもいい試合でしたが、それゆえにとても残念なところも
あります。しかし、学生はよく頑張りました。力が足りなかったのは、監督の力量が
足りなかったということだと思います。もう一歩、ここのレベルで勝つ準備、勝つイ
メージを持つことを一年間かけてやれていれば、今日の試合も前回同様、落ち着いた
プレーができたのではないかと思っています。一回勝ったことで満足しないで、挑戦
心を奮い立たせることへの大きな経験をいただくことができました。監督がそうした
イメージを持って、計画を立てていくということと、そして学生が本当にそれを乗り
越えていくための積み重ねをしていれば、今日、我々にも微笑むチャンスはあったの
ではないかと思います。今日の試合を経て、見えてきたものもたくさんあります。そ
の見えたものをしっかりと捉えて、次のチームはこれまで作ってきた財産を活かして
ほしいと思います。今日の4年生たちの頑張りをしっかりと受け止め、さらなる大き
な挑戦をしてくれることを期待しています。最後になりましたが、一年間、帝京大学
ラグビー部を応援してくださり、本当にありがとうございました。来年度もよろしくお願い
いたします。」

■キャプテン・SH流大(4年)
「まずは、日本選手権という舞台でもう一度試合ができたことを誇りに思います。ま
た、今日、東芝さんが自分たちに対して最後までファイトしてくださったことに感謝
を申し上げます。結果は敗戦ということになり、悔しい気持ちでいっぱいです。しか
し、ここに来るまでのプロセスや今日の試合で得たものは必ず財産として、4年生は
社会人になって、3年生以下は来年度のチームに活かしてくれると思います。最後の
取り切るところ、精度の部分、細かいところをもっともっと突き詰めていれば、違う
結果になったのではとも思います。反省点はいろいろありますが、僕自身、キャプテ
ンとして、この1年間、チームの先頭に立ってここまで来られたことは本当に誇りに
思いますし、また何より一緒に苦しいことを乗り越えてきた仲間を誇りに思います。
そして、支えてくださったスタッフの方々にも感謝を申し上げます。これで今年度の
帝京ラグビー部の試合は終わりますが、また3年生以下がもっともっと進化を遂げた
ラグビー部を作り上げ、そしてこの日本選手権でまた違った結果を出せるように進化
していくと思いますので、これからも応援よろしくお願いします。」


■後半、追い上げる2トライをあげた・WTB磯田泰成(4年)
「今日は4年生が覚悟をもって、強い気持ちで先頭に立って戦おうと言って臨みまし
た。ゲーム自体は、この1年間、自分たちがやってきたことが通じた部分も多くあっ
た試合だったと思います。ただ、まだまだトップリーグのレベルには達していない部
分も実感しました。通用した部分も通用しなかった部分も、後輩たちがまた1年間、
積み重ねていって、もっともっと成長して、トップリーグに通用するチームになって
いってくれると思っています。帝京大学で過ごせた4年間は、これからの人生を生き
ていくなかで、人間的にもラグビー面でも本当に成長させてもらった時間でした。後輩たち
は、今日の悔しさをバネにして、チーム一丸となってまずは今年のチームを超えて、
さらによりよいチームになっていってほしいと思います。」


■大きな相手にひるまずタックルし続けた・CTB前原巧(4年)
「今日のゲームはチームがいままで以上に一つになって臨めた試合だったと思いま
す。フィールドのメンバーも、今までで一番体を張ったと思いますし、フィールド外
のメンバーも試合に対して全力で取り組んできたと思います。後輩たちには、自分た
ちが残せたものを受け継ぎつつ、チームがさらに躍動していけるように、慢心した
り、満足してしまったりすることなく、日々のことにしっかりひたむきに取り組んで
いってほしいと思います。」


■強さを見せ、何度も激しく前に出た・FB重一生(2年)
「今日はNECさんに勝利したという自信をもって、はじめから全力でやろうと言って
臨みました。いいプレーも出ましたが、その反面、自分の欠点も出てしまったので、
来シーズンに向けて修正する課題としてもっと上を目指して取り組んでいきたいで
す。寮でもグラウンドでも、4年生の先輩方がどれほど、言葉では言い表せないほど
頑張ってきたかを見てきたので、このゲームで最後になってしまったことがとても残念です。
今日、手応えを得られた部分もあったので、今日の悔しさを忘れず、来年度は今年のチームを
超えていけるように、上級生としてチームを引っ張っていきたいと思います。」


■後半、体を張って相手に当たり続けた・LO・No8飯野晃司(2年)
「今日はチームの団結、そして出られないメンバーへの感謝の気持ちを感じて試合に
臨むことができ、自分のプレーもいつも以上に『やらなければ』という強い気持ちで
臨めました。しかし、それでも勝てなかったので、とても悔しいです。東芝さんはス
クラム、ラインアウト・モールがとても強く、そこでやられてしまいました。新チー
ムでは、自分は新3年生の中でもしっかりとリーダーシップを取っていくこと、そし
て4年生についていくだけではなく、チームの中でもリーダーシップを取っていきた
いです。プレー面では、ラインアウトの核になるように、セットプレーで出た課題を
解決して、成長していきたいです。」


■東芝ブレイブルーパス・SO森田佳寿選手(帝京大学OB)
「この一週間、帝京大学に対してきちんとスカウティングをして準備をしてきまし
た。実際に試合で感じたことは、ディフェンスにおいては前に出るというフォーカスを
もっていましたし、アタックにおいては自分たちの形で最後までアタックし続けると
ころ、一人一人の小さな役割のところもすごく細かく徹底されていたと感じました。
総じてなにより自分たちのやろうとしていることをやり切る力がとても高かったで
す。私がいた3年前よりもすべてにおいてクオリティがすごく高かったですし、一人一人の
志も高かったので、OBであるということはまったく関係なく、すばらしいチームだと思い
ました。」



《PICK UP PLAYERS》

今年のチームに追い付き、もう一段成長できるチームにしたい
HO坂手淳史(3年)
SAKATE ATSUSHI



1993年6月21日生まれ
医療技術学部スポーツ医療学科
京都成章高校出身
身長179cm/体重103kg


■まずは今日のゲームの感想からお願いします。
「前半の立ち上がりで少し抜けてしまったところがありました。ディフェンスのとこ
ろで、自分たちがやってきたことが出せず、簡単に抜かれるところが多く、そこが原
因で点差が開いてしまったのかなと思います。」

■先週、打倒トップリーグという一つの目標を達成して、今週はさらに強い相手と
戦ったわけですが、特に気持ちの面での切り替えなどは難しかったのではないでしょ
うか。

「少し難しいところはあったかもしれませんが、そこは切り替えてできたと思います
し、目標が高くなればなった分だけ、自分たちのやるべきことが増えるだけなので大
丈夫だったと思っています。」

■この一年を振り返って、今年のチームはどんなチームだったと思いますか。
「4年生がとてもよく引っ張ってくださるチームだったと思います。Aチームのメン
バーだけでなく、それ以外のB、C、Dチームの4年生の方々が引っ張ってくださったと
ころが多かったので、そこは自分たちが学ぶべきところ、尊敬すべきところだと思い
ます。」

■次期キャプテンとして、どんなチームにしていきたいと考えていますか。
「僕だけではなく、バイスキャプテンの金田、そして4年生全員で協力してやってい
きたいです。金田とは普段からよく話をしますし、彼は僕の目の届かないところまで
よく見てくれる男です。キャプテン、バイスキャプテンはもちろんですが、4年生全
員がリーダーシップを取っていけるチームにしていきたいと思います。」

■では、来シーズンに向けての抱負をお願いします。
「今年の財産、そして6連覇という財産を継承しつつ、自分たちの代でもう一段、成
長させられるようなチームを作っていきたいと思いますので、よろしくお願いし
ます。」


この日、岩出監督から正式に次期キャプテンとして発表されたが、周囲からもメディ
アからもかなり以前から「次期キャプテン候補」として名前が挙がるなど、そのキャ
プテンシーは多くの人が認めるところだ。岩出監督からの信頼も厚い。もちろん、プ
レー面での仲間たちからの信頼も絶大。自身のケガなどもあり、試合に出られないメ
ンバーたちの気持ちも理解している。あとはそのキャプテンシーを存分に発揮するだ
けだ。先輩たちがこの日に見せてくれた熱いものをも超える、新チームのさらなる躍
進に期待しよう。


《COLUMN》

――新たな目標が生まれ、新たな歴史が動き出す――

日本選手権2回戦はトップリーグ3位の東芝ブレイブルーパスに敗れ、今年度のチーム
としての試合はすべて終了しました。試合を見た多くの人が感じたように、帝京大学
ラグビー部はまさに「大健闘」を見せてくれました。後半だけなら19-17。この点を
高く評価する声も少なくありません。

しかし、「負けた」という事実は変わりません。「頑張った」「健闘した」「可能性
を見せた」というところで満足してしまっては、それ以上には行けません。もちろんそれがわ
かっているからこそ、多くの選手たちが「悔しい」という言葉を口にしたのでしょ
う。

結果に満足することは、私たちに心地よさや自信を与えてくれます。それ自体はいい
ことです。ただ、心地よさや自信が「居心地のよさ」になってしまうと、そこから抜
け出せなくなってしまいます。成長を妨げる要因にもなりかねないわけです。

この日、選手たちは一様に「東芝戦に対しても、この一週間、NEC戦と同じ気持ちで
取り組んだし、強い気持ちで臨めた」とコメントしてくれました。ですが、岩出監督
だけは少し違った見方をしていたようです。

「今日は『勝てる』という思いと、まだ少し確信が持てない部分と両方があったの
か、学生たちには少し迷いがあったように思います。」

選手たちに聞くと「そんな迷いはありませんでした。」と答えます。はたしてどちら
が正しいのでしょうか。これは「どちらも正しい」と考えられます。なぜなら、岩出
監督の発言は選手たちの無意識(潜在意識)まで見通して出てきた発言だからです。


V4を達成し、日本選手権に挑んだ2年前の泉敬主将(現・NTTドコモ)は、当時、ク
ラブチャンピオンを倒して次戦のトップリーグ挑戦を目指す記者会見で「次は最後の
試合になりますが」と発言し、岩出監督から「まだ負けてないよ」と突っ込まれまし
た。今では笑い話になっているエピソードですが、ここには大きな示唆があります。

あの泉元主将とて、負けるつもりでいたわけではないはずです。しかし、無意識の奥に
「次はとても勝てない」と思う気持ちがあったために、こうした発言が思わず出てし
まったのです。このように、無意識というのは意識とは別に思わず出てきてしまうの
で厄介です(だからこそ「無意識」と呼ばれるわけです)。

今日の試合、選手たちの意識としては「NEC戦と同じか、それ以上の気持ちで臨ん
だ」に違いありません。しかし、無意識までは自分ではなかなか見通せません。岩出
監督は強い意識で戦おうとしている選手たちの無意識の奥の奥に、NEC戦とは違う、
小さな迷いの欠片があったことに気付いたのでしょう。

その迷いの最大の要因は「NEC戦の勝利から得られた満足感と居心地のよさ(もっと
先を見通した目標設定をしなかったことによる成長の鈍化)」と見抜いた岩出監督
は、こう続けました。

「夢や非現実と思われても、現実とミックスしながら『社会人を倒して日本一』とい
う目標セッティングが必要だったのでしょう。その気概をチームにもってほしいと思
うなら、まずは監督自身がもたないといけないと思いました。」

この岩出監督の話について記者会見で伝え聞いた東芝の冨岡ヘッドコーチは質問の途
中で思わず「すごいな!」とつぶやき、「さすが岩出先生。学生であっても、そういったメンタリティ
で臨むことは必要なことなのだろうと思います。」と述べられました。

また、サッカー日本代表の本田圭祐選手は、ワールドカップでの目標を問われると必
ず「優勝です。」と答えていました。監督も関係者も「ベスト4」「ベスト8」と公言
する中での発言です。ほとんどの人が本田選手の発言を「夢や非現実」と捉え、「ま
たビッグマウスの悪い癖が出た」と思った人も多かったようです。しかし、本田選手
自身は「現実とミックス」していたはすです。

「優勝」と「ベスト4」「ベスト8」との最大に違いは、「無意識の中に負けることを
想定しているか、いないか」です。「優勝」は負けたら達成できませんが、「ベスト
4」「ベスト8」は逆にすでに負けることを想定しています。本田選手はそのことをよ
く理解しているからこそ、多くの人が「夢や非現実」と思ったとしても、あえて「優
勝」という目標を公言していたのでしょう。

「社会人を倒して日本一(=日本選手権優勝)」は、今はまだ多くの人が「夢や非現
実」と思っているかもしれません。リアリティがもてない目標は、本当の意味での目
標にはなりませんから、「夢や非現実」と思われることにいかにしてリアリティをも
てるかが、今後の帝京大学ラグビー部がさらなる大きな歴史作りに向かっていけるか
どうかのポイントになるのかもしれません。

泉元主将の発言でもわかるように、以前は「打倒トップリーグ」は多くの人
にとってある意味で「夢や非現実」でした。でも、今ではしっかりと「現実とミックス」されて
います。「社会人を倒して日本一」も、目標なので達成できるかどうかは今後の努力
次第なのですが、少なくとも「現実とミックス」した形での目標設定はできる段階に
来つつあるのではないでしょうか。

私たちファンは、また新たな楽しみをもらえることになったのかもしれません。すぐ
に結果が出るわけではないかもしれませんが、楽しみは後に取っておくほど大きいと
言いますから、選手たちの成長を温かく見守っていきましょう。
そして最後に一言。今年度の4年生の皆さん、本当に大きな感動とエネルギーをありがとうございました。
その日々の頑張りのすべてまでは、周囲は知り得ませんが、
少なくともこの試合を目撃した多くの人々に、感動とエネルギーを与えてくれたことは間違いありません。
そして、その襷は必ずや後輩たちが繋いでいってくれることでしょう。


《NEXT MATCH》

今年度の試合はすべて終了しました。応援ありがとうございました。
今後の予定につきましては、決まり次第、随時、当ホームページにてお知らせいたし
ます。


(文/木村俊太・写真/志賀由佳)

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