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第53回日本ラグビーフットボール選手権大会 パナソニック ワイルドナイツ戦

第53回日本ラグビーフットボール選手権大会 パナソニック ワイルドナイツ戦

2016/02/01

1月31日(日)・秩父宮ラグビー場
○帝京大学15-49パナソニック ワイルドナイツ●

《帝京大学》
[FW]
(1)徳永⇒坂手(2)堀越⇒垣本(3)深村⇒浅堀(4)飯野⇒姫野(5)金(嶺)⇒
小野(6)イラウア(7)亀井(8)マクカラン
[BK]
(9)小畑⇒荒井(10)松田(11)竹山(12)濱野⇒金田(13)石垣(14)尾崎
(15)矢富⇒重

《パナソニック ワイルドナイツ》※先発のみ
[FW]
(1)稲垣(2)堀江(3)ホラニ(龍シ)(4)谷田部(5)ヒーナン(6)マッカルマ
ン(7)西原(8)ホラニ(龍コ)
[BK]
(9)内田(10)バーンズ(11)児玉(12)林(13)笹倉(14)山田(15)北川

【前半】【得点経過】
【1分】帝0-7パ
キックオフから展開され、トライを奪われる。

【5分】帝0-14パ
キックオフからつながれ、トライを奪われる。

【19分】帝3-14パ
SO松田がPGを決める。

【33分】帝3-21パ
ターンオーバーからつながれ、トライを奪われる。

【後半】【得点経過】
【1分】帝3-26パ
こぼれ球を拾われ、トライを奪われる。

【7分】帝3-35パ
連続攻撃から走られ、トライを奪われる。

【18分】10-35パ
スクラムでのFKをNo8マクカランがクイック・リスタートで前進し、連続攻撃。さら
にLO姫野が前進。HO坂手につなぎ、ラックになるもSH小畑が仕掛けて、PR堀越へパ
ス。堀越が抜け出してトライ。ゴール成功。

【23分】帝10-42パ
ラインアウトからFWで攻められ、トライを奪われる。

【30分】帝10-49パ
ラインアウトからモールを押し込まれ、トライを奪われる。

【38分】帝15-49パ
スクラムからNo8マクカラン-WTB竹山と渡り、竹山がトライ。



《BRIEF REVIEW》

今年は日本選手権のフォーマットが変わり、大学チャンピオンとトップリーグチャン
ピオンとの一発勝負となった。相手は、ワールドカップを戦った代表選手が数多く名
を連ねるパナソニック ワイルドナイツ。帝京は「苦しいこと、痛いことを楽しんで
戦おう」「倒れても何度でも立ち上がろう」と言って臨んだ。試合開始直後が大切な
ことは十分にわかっていたはずだが、トップリーグチャンピオンの圧力、さらには前
の試合から3週間あいたことによる試合勘の欠如がたたり、開始5分で2トライを献上
してしまう。しかし、このあたりからようやく帝京も試合勘を取り戻すとともに、
トップリーグの圧力への対応ができてくる。だが、予想外のアクシデントが帝京の勢
いを阻む。いい流れになりつつあった前半13分にLO飯野が、21分にはLO金がケガでの
交替を余儀なくされる。好タックルを続けていた長身の両LOを失った代償は小さくな
かったが、それでも交替で出場したLO姫野、FL小野が体を張るプレーや大きく突破す
るプレーで何度も場内を沸かす。CTB石垣らも好タックルを見せ、HO堀越は味方への
すばやい寄りでチャンスを作る。ミスもあったが、懸命のプレーで何度もスタジアム
を沸かせ、3-21で前半を折り返した。ハーフタイムに岩出監督から「慣れてきた
ら、やれそうだろう」と声がかかると、選手たちは笑顔でうなずいた。だが、トップ
リーグ王者は後半もその牙を隠すことはなかった。前半同様、開始1分でトライを奪
われ、7分にも失点してしまう。それでも、何度でも立ち上がる帝京は、FLイラウア
らの激しい突進などでチャンスを作る。18分、SH小畑の仕掛けに鋭く反応してパスを
もらったHO堀越が抜け出して、この日、初のトライを奪取。38分にはプレッシャーの
かかるスクラムで、No8マクカランがなんとかボールをキープし、WTB竹山がタッチラ
インギリギリに走ってトライを奪う。だが、反撃もここまで。15-49で敗れ、日本選
手権準優勝という結果で今シーズンの最終戦を終えた。なお、試合後の記者会見で岩
出監督から、来シーズンの新チームは、亀井亮依キャプテン、飯野晃司、松田力也の
両バイスキャプテンという体制となることが発表された。



《POST MATCH INTERVIEW》

■岩出雅之監督
「今日は、『倒れても倒れても、何度でも立ち上がって戦おう。苦しいことも痛いこ
とも、すべてを楽しもう』と言って、送り出しました。学生はよく頑張ったと思いま
すし、いい経験を積んでくれたと思いますが、試合の中で、もう少しできたかなとい
うところと、まだまだ足りないなというところがあったように思います。学生の表情
も、曇っているわけではないのですが、もう少しできたのではないかという思いの溜
まった部分が見えました。このチームは今日で終わりますが、来年度は一人一人が新
しい自分、そして新しいチームに今日のゲームを活かしてもらえたらと思います。長
いシーズンの最後に、こうした最高の舞台でゲームをやらせていただいたことに感謝
するとともに、関係者の皆様のご尽力に感謝申し上げます。また、学生相手にも手を
抜くことなく、最後まで真摯に戦ってくださったパナソニック ワイルドナイツの選
手、ならびに関係者の方々にお礼申し上げます。さらには、この一年、帝京大学ラグ
ビー部を応援してくださった皆様にも、深くお礼を申し上げたいと思います。来シー
ズンも、今シーズンと変わらぬ応援をお願いいたします。ありがとうございまし
た。」

■キャプテン・HO坂手淳史(4年)
「正直、悔しいです。まだまだできた部分があったと思います。ですが、あのグラウ
ンドでできた経験は、今後の帝京大学の糧になるものだと思います。この悔しさから
何かが生まれて、またここから努力し直す、それが帝京大学の強さだと思います。こ
れからさらに帝京大学は強くなっていきます。それを後輩たち、そして新しく入って
くる1年生たちに託したいと思います。すでに大学4年生の多くが引退しているこの時
期に、この日本選手権というグラウンドに、学生代表として立てたことはとても幸せ
なことです。しかし、ここからが勝負だと思うので、一人一人が考えて、もう一度、
行動を見直し、練習し、人間性を高めていってほしいと思います。」


■チームの先頭に立って、体を張って、声を出していきたい・LO飯野晃司(3年)
「最後に(ケガで前半13分に交替してしまって)満足にプレーできなかったことは、
本当に悔しいし、ふがいなく思っています。来年度は、今まで先輩方が積み上げてこ
られたことを自分たちがしっかりと文化として継承し、そのあとに自分たちのいい部
分、自分たちのカラーを加えて進化させていきたいです。自分としては、最後にケガ
で終わってしまったので、1年間、常にケガなく、チームの先頭に立って、体を張っ
て、声を出していきたいと思います。」


■毎日を大切にして、しっかり積み重ねていきたい・SO松田力也(3年)
「やっぱり悔しいです。前半、相手のスピード、テンポに反応できずに、連続トライ
されてしまいましたが、そのあとはようやく少し慣れてきて、自分たちのラグビーが
できていたので、ゲームの入りのところはもったいなかったです。終わってみて、通
用したところも多々あったので、もっとできたのにというのが今の気持ちです。ディ
フェンスでしっかり止めることで相手も我慢しきれずにミスをしてくれるシーンも
あって、その時間をもっと早く作れるようにしたかったです。この経験は必ず来シー
ズンに引き継がれていくと思いますし、いい財産になったので、この経験を知ってい
る僕たちがみんなに伝えて、大学選手権も勝って、来年こそは本当に日本選手権で勝
てるように、その差は大きいとは思いますが、もう一度、いろいろなことを見直し、
毎日を大切にして、しっかり積み重ねていきたいと思います。」


■妥協せず、練習の質から変えていきたい・FB重一生(3年)
「『悔しい』の一言が今の率直な気持ちです。試合前は本気で勝つつもりでしたし、
勝てると思って挑んだのですが、今、こうして大差で負けてしまったという結果が出
てしまったので、大きな差があったということだと思います。気持ちの面だけでな
く、プレーの面で見えた反省を活かして、来シーズンは今シーズンよりもさらに厳し
くやっていかなければいけないという気持ちがあります。チームとしても、個人とし
ても、もっとレベルの高い練習をして、レベルの高い試合をして、レベルの高いチー
ム組織を作っていきたいです。そのために、この悔しい気持ちを一番よくわかってい
る今日のメンバーたちがみんなに発信して、自分も先頭に立って、妥協せずに、練習
の質から変えていきたいと思います。」


■両チームに感謝したい・相馬朋和コーチ
「帝京とパナソニックの両チームのコーチをさせていただくことになってから、今日
のこのような対決をずっと夢見てやってきました。それが実現し、本当に幸せな気持
ちです。『複雑なのでは』といろいろな方に言われるのですが、自分としてはこれ以
上ない幸せを味わわせていただいたと思っています。それもこれも、両チームの関係
者の方々のおかげであり、また私のような者を『コーチ』として認めてくれる選手た
ちがいてくれたおかげなので、本当に心から感謝の気持ちでいっぱいです。ありがと
うございました。」

■パナソニック ワイルドナイツ主将・HO堀江翔太(帝京大学OB)
「非常に緊張しました。変な緊張感がありましたね。勝ててよかったです。試合で
は、自分も含めて、うちの選手が何人も帝京の選手に吹っ飛ばされるシーンがあり、
学生とは思えない強さを感じました。試合後、岩出監督からは『真面目にやりすぎ
だ』と言われましたが、もともとトップリーグ並みの力を持っているチームだと思っ
ていたので、チームには『帝京大学に対してリスペクトを持って、しっかり100%ぶ
つけていこう』という話をしていました。それができてよかったと思います。」



《PICK UP PLAYERS》

この試合で得たものは、収穫として絶対に活かす

FL 亀井亮依(3年)
KAMEI RYOI

1994年10月8日生まれ
医療技術学部スポーツ医療学科
常翔啓光学園高校出身
身長178cm/体重97kg


■日本選手権という舞台で戦った今の気持ちを聞かせてください。
「自分たちが一年間やってきたことをどれだけぶつけられるかという気持ちで臨んだ
のですが、さすが日本一のチームだなと感じさせられました。その中でも、通用した
部分もありましたし、通用しなかった部分もありました。今シーズンはこれで終わり
ましたが、この試合で得たものを来シーズンへの収穫として絶対に活かします。」

■試合前と今とで、気持ちの面で最も変わった点はどんなところでしょうか。
「まだ全然足りなかったとわかったところですね。トレーニングやプレーのこだわり
など、日々の生活、練習からすべて意識を変えていかないといけないと思いました。
毎日の生活、練習で、どれだけトップリーグを、どれだけ日本一を意識できるかだと
思います。けっして大学相手のゲームを軽視するということではなく、それだけでは
足りないと痛感させられたということです。強度、考え方、ストラクチャー……すべ
ての質をもっともっと上げていかないと勝てないと思い知らされました。」

■来シーズン、亀井選手がキャプテンとなることが、記者会見で岩出監督から発表に
なりました。自身の中で決意が固まったのは、いつ、どのようなタイミングだったの
でしょうか。
「自分と飯野と松田の3人(飯野、松田は来シーズンのバイスキャプテンとなる)が
チームを引っ張っていく立場になるという話は、学年での話し合いの中であったの
で、自分なりに覚悟はできていました。ただ、誰がキャプテンになるかというところ
までは、なかなか決まりませんでした。学年一人一人の意見を聞き、ありがたいこと
に自分の名前を一番多く挙げてもらい、さらに先ほどの3人で話し合って決めまし
た。それまで、自分の中では『チームを引っ張る』という部分での覚悟はできていた
ものの、キャプテンとなると何か引っかかるものがありました。それは、坂手さんの
ように歴代キャプテンの多くが1年生からAチームの試合に出ていて経験も豊富でした
し、さらには人間的な魅力も大きい人がなるものという、自分の中のキャプテン像が
あったからでした。それに比べて自分はどうかと振り返ったとき、引っかかるものを
感じたわけです。でも、学年での話し合いを続ける中で、一人一人の意見を聞き、推
薦してくれる仲間のためにも男として決心しようという気持ちになりました。楽しい
ことよりも、壁にぶつかることの方が圧倒的に多いと思いますが、この1年間、その
壁にどんどんぶつかっていこうと思っています。僕一人じゃなく、飯野や松田や同学
年のみんながいてくれるので、同学年40人全員と一緒に1年間戦おうと決心しまし
た。」

■現段階では、来シーズン、どんなチームにしていきたいと考えていますか。
「チーム内の温度差のないチームにしていきたいです。岩出監督やコーチ陣、スタッ
フの方々の力はもちろんですが、チーム力やいい文化の継承は4年生の力にかかって
いると思うので、まずは同学年全員の温度差をなくすこと、一人一人がどうすれば
チームがいい方向に向かえるか、どうすればいい文化の継承につながるかを考えて行
動すること、その中でさらに下級生に教えていく立場として、正しい考え方、行動を
伝えていきたいです。」

■高校時代もキャプテンを経験しているんですね。
「はい。ただ、高校のときは、苦しいときに体で示すということが中心でした。帝京
大学ラグビー部のキャプテンは高校のキャプテンとは違って、体で示すのはもちろん
のこと、さらに自分の考えをきちんと伝える力が必要だったり、いろいろなことがで
きないと務まらないと思っています。自分は口数が少ないので、そこはこれからの課
題として『伝える力』を磨いていきたいと思っています。」

■では、改めて、来シーズンに向けての意気込みをお願いします。
「今シーズンは今日で終わりましたが、パナソニックさんから課題、宿題をいただき
ました。試合に出たメンバーは通じたところ、通じなかったところを体感しました
し、見ていたメンバーも空気感、雰囲気を感じることができたと思います。それらす
べてを共有して、来シーズンに活かして、日本一を目標に、チームの温度差をなくし
て、一日一日を大切にして、チームとして成長していきたいと思っています。」


来シーズンのキャプテンはこの日も「帝京のFLとして」体を張り続けた。キャプテン
に推した同学年たちからの強い信頼は、その人柄はもちろん、痛いところ、苦しいと
ころで常に体を張り続ける部分に由来する。本人は「自分は口数が少ないため、伝え
る力が弱い」と評するが、コメントを読んでもらえばわかるとおり、一つ一つの質問
に対して誠実に、詳細に答えている。こうした真摯なコメント力が積極的な発信力と
リンクすれば、本人の言う「伝える力」となっていくことだろう。「一人じゃない」
という意識をもっている点も強い。来シーズン、どんな戦いを見せてくれるか。亀井
キャプテン率いる新チームが船出のときを迎える。



《COLUMN》

――倒されても、何度でも立ち上がる――


坂手キャプテン率いる今シーズンのチームは、この日の試合ですべての日程を終えま
した。

日本代表のみならず、他の強豪国の代表までもが名を連ねるパナソニック ワイルド
ナイツは、日本一であると同時に、ワールドクラスのチームだったと言っても過言で
はないでしょう。

得点は15-49と開いたものの、そのチームを相手に2トライを奪い、また、パナソ
ニックの堀江キャプテンが述べていたように、局面局面では帝京の選手がトップリー
グのチャンピオンを「吹っ飛ばす」シーンが多々見られました。

それでも大きな差が開いたのは、パナソニックが学生相手でも油断せず、本気の戦い
をした証しでしょう。帝京、パナソニックの両チームでコーチを務める相馬朋和コー
チは試合前、こう語っていました。

「LIXILカップでトップリーグチャンピオンになってすぐに、堀江(翔太・パナソ
ニック主将)はチームに『日本選手権は学生相手という気持ちではなく、トップリー
グと戦うつもりで準備しよう』と伝えました。これだけで、チームのみんなもわかっ
たので、練習からいつもどおりにできました。」

ラグビーの試合では、常々、「ミスマッチ」の問題が指摘されます。実力差のありす
ぎるチームどうしが戦うことに、はたして意味があるのか、という問題です。

ただし、この問題を語る人の多くは「ミスマッチとは何か」の定義を曖昧にしたまま
論じているように思います。また、強者の論理、弱者の論理、観客の論理、さらには
育成者の論理などで見方も変わってくるでしょう。あるいは、視点を現在に置くか、
未来に置くかでもまったく違ってくるはずです。

今後、こうした細かなところまで見据えた話がなされていくと、非常に建設的な議論
になっていくことでしょう。

実際、「点差が開く試合などやる価値がない」と考える人もいれば、パナソニックの
ロビー・ディーンズ監督がコメントしているように「今日の試合を見た人で不幸せな
人はいないだろう」と考える人もいれば、ワールドカップ2019日本代表戦略室の薫田
真広室長がコメントしているように「(この日の)34点差を縮め、逆転させるための
積み重ねが、日本ラグビーのレベルアップにもつながるだろう」と考える人もいるわ
けです。

将来を見据える学生たちにとっては、大きなモチベーションとなる試合です。

3-21と大きくリードされたハーフタイムでも、ロッカールームの選手たちの表情は
活き活きとしていました。岩出監督から「慣れてきたら、やれそうだろう」との言葉
がかかると、みな、笑顔でうなずきました。

そして、得点差は大きくつきましたが、帝京の前に出るプレー、前で止めるプレー
に、場内は大いに沸くことになりました。

試合後のドーピング検査のため、ロッカールームに一人残っていた新キャプテン亀井
亮依に、岩出監督はこう声を掛けました。

「亀井、来年こそは本気で日本一になろうな。」

「はい。」

亀井は岩出監督を真っ直ぐに見据えて答えました。

この日のテーマは「何度倒されても、そのたびに何度でも立ち上がること」。今日の
試合では思い切り倒されましたが、それでも来シーズンに向けて立ち上がり、目標に
向かって突き進んでいきます。



《NEXT MATCH》
本年度の試合はすべて終了しました。応援、ありがとうございました。
新年度のスケジュールは決まり次第、本ホームページにてお知らせいたします。

(文/木村俊太・写真/志賀由佳)

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